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DVD「甲野善紀 技と術理2019 「教わる」ことの落とし穴」自薦文
「影観法」から「響きを通す」へ

2013年から、年に一度、夜間飛行から出しているDVDを今年も出すことになった。今年の2月で、私も古稀70歳となったが、その前後に「ちょっと今までにない気付き」があり、この先また、これがどう変化していくかまるでわからない。現に、つい先日この出来上がってきた今回で７枚目となるDVDをチェックしていて、「ああ、この時はこれに気付いていたのか」と思ったり「ああ、この技は、あれと組合わせて使うと、また違った働きが生れそうだな」と思うことがいくつかあった。

ただ、この「ちょっと今までにない気付き」である「響きを通す」は、これを行なう時の気持ちというか心理状態が、今まで一度も体験した事のない、ある「信」によって行われており、これは信仰の世界における、ただ観念で信じるだけではない、もっと深い身体の感覚とつながっている気がしているのである。

このような事に気付いたのは、この技の原理を遠方で起こった地震によって発生する津波に「例える」ことによってもたらされた。それだけに、この「響きを通す」は、これから私が体験すると思われる「思いがけない世界」への入り口になっているように思う。その予測通り、この「響きを通す」は、これが生まれてから数ヶ月経ち、様々な場面で試し検討することで、これが変化し、成長してきている。

この技は、元々、心法的色合いの濃い技法であり、これは昨年一番検討を重ねてきた「影観法」と共に、私が今まで入ることの出来なかった世界を見せてくれている。ただ、そのことで私の武術の技法が現在のレベルの「心法」に滞ってしまっては、その後の進展にも限界があるのではないかという実感も最近あり、そのため動きの質を変える身体の稽古の必要性を感じている。そして、この「動きの質を変える身体の稽古」とは、よくある走り込んだり、重い物を持ち上げるような稽古ではない。足腰といった下半身と腕や手といった相手と接する身体の部位とが、普通の使い方で関連して動くのとは異なる「術」としての連動を見出すべく、体の内側を探究しつつ行なう稽古である。

そして、そのための稽古として打剣、つまり直打法による手裏剣術は非常に優れたものを持っているが、これは剣を飛ばすのにボールを投げるような、一般的な動きによるピッチングとは異なり、「打つ」と表現されているように、太刀を斬り下ろすようにして、腕を振る動作で剣を飛ばすからだと思う。

奇しくも今回のDVDでは今まで出したDVDの中では最も詳しくその剣の飛ばし方についても解説しているので、この稽古の妙味に触れたいと思われていた方には御参考になると思う。

また、今回は最近私が剣道家の方々と竹刀を合わせても驚かれる「影観法」による剣術の表交差から裏交差への抜き方も取り上げているが、これも関心を持っていただける方には御参考になると思う。

さらに、体術の捨身技で身を捨てた時、両足を相手の後ろに抜く「新月投げ」も、こうした技に関心を持たれる方には御参考になると思う。現在は「内腕」を利かせることで、この捨身技をさらに有効にしているので、この捨身技や剣術の「影観法」なども御関心のある方は、都内近県さらには日本各地で開いている私の講習会や講座にお出かけいただきたいと思う。

2019年7月  甲野善紀

DVD『甲野善紀 技と術理2019――「教わる」ことの落とし穴』
内容紹介